2022年4月9日 公開
2018年4月に、建築業界では義務化されたものがあります。それがホームインスペクション(住宅診断)です。
ホームインスペクションは、住宅に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が、第三者的な立場・専門家の見地から、住宅の劣化状況をチェックし欠陥や、改修すべき箇所があるかないか、そしてその時期やおおよその費用などを精査して依頼者にアドバイスを行うものです。
ホームインスペクションに関する説明について義務化されたのが2年前ですので、まだまだ不動産業界の中でも注目を集めています。
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ホームインスペクションとはどのようなものなのか
ホームインスペクションは、住宅を診断するものですので、住宅の現況をチェックしてどのような状態にあるのかを明らかにすることを目的に行います。
例えば、中古住宅の購入前や売り出し前に行うことで、建物のコンディションを把握できます。このコンディションがはっきりしていないと、信用ある取引ができない(後々にトラブルの種になるような欠陥が見つかるなど)可能性がありますので、ぜひとも実施しておきたいところです。もちろん、居住中の住宅についてもホームインスペクションを行うことで現況を知ることは大切です。
ホームインスペクションでは、「目視」がメインで屋根や外壁、室内、小屋裏、床下などの劣化状態をチェックします。アメリカでは、すでに不動産取引全体の70~90%でホームインスペクションが実施されるほど日常的に行われていますもので、日本でも2018年4月から中古住宅に限り義務化されました。
一般的なホームインスペクションは、依頼者が中古住宅を売買する前にその対象住宅のコンディションを把握するために行われます。これは、人間が病院で行うところの「健康診断」に近いものと考えて良いでしょう。
健康診断を受けた後に、診断結果については医師からの説明や郵送された書類でその結果を知ることになります。治療をするまでもない症状でも「経過観察が必要」と判断される場合もありますし、すぐに精密検査を受けるべきという判断が出ることもあります。
もし、精密検査や再検査が必要な場合は、より専門的な医療を行っている病院で検査を受けることになりますが、これはホームインスペクション後の住宅も同じです。「住居の健康診断」を終えて、その結果によってはより精密な調査・修理が必要になることがあります。
例えば、外壁や基礎に不具合の兆候があった場合、室内に雨漏りをしている形跡がないかなどを目視で確認して、善後策を検討します。ホームインスペクションは、住居を「健康な状態」で使用するための診断の第一歩となるものですので、被害を悪化させないためにも実施する価値は高いと評価されています。
ホームインスペクションが義務化されたことによる変化
ホームインスペクションは、中古住宅の売買時に義務化されました。2018年4月から施工されたこの義務化により、ホームインスペクションについて不動産業者が買主・売主に対して説明すること、そしてホームインスペクション業者を紹介・斡旋できるかを告知することになりました。では、このホームインスペクションの説明について義務化されたことで、どのような変化が起こっているのでしょうか。
まず、ホームインスペクションの説明の義務化について正しく理解するためには、基礎的な知識を把握しておかなければいけません。2016年に「ホームインスペクションが義務化される」というニュースが発表され、2017年には不動産業界以外でもホームインスペクションの話題が取り上げられるようになりました。
もちろん、不動産業界でこの義務化については誰もが知っていることでしょうし、このタイミングで中古住宅の売買を検討していた人はホームインスペクションについて注目していた人はたくさんいたでしょう。
このホームインスペクションの義務化の法的根拠は、宅地建物取引業法の改正です。この法律改正が2018年4月でしたので、ホームインスペクションが義務化されたのも2018年4月となりました。
日常生活においては、不動産業界以外では宅地建物取引業法はあまりなじみのない法律だと思われますが、不動産業務の適正な運営や公正な取引をするための環境作りについて、不動産取引に関する物事を定めている重要な法律です。今回の法律改正では、ホームインスペクションのことは「建物状況調査」と称し、この「建物状況調査」が中古住宅の売買において必須となりました。
2018年4月からの変更点
ホームインスペクションは、2018年4月から急に実施されるようになったものではありません。以前から、新築住宅・中古住宅問わず任意で実施されてきたものですし、ここ近年はホームインスペクションの依頼者は増加傾向にありました。そのため、今回の法律改正がなかったとしても利用者の増加は予想されていました。しかし、法律改正が行われたことで、中古住宅の売買においては急激に増加することになりました。
今回の法律改正によるホームインスペクションの義務化は中古住宅のみが対象になっていますので、新築住宅に関しては任意実施となっています。これは、特に中古住宅の取引でトラブルのリスクが高かったことが要因で、その透明性を高めて買主の不安を払拭することを目的としています。実は、日本は先進国の中では住宅売買に占める中古住宅の流通量が少ないといわれていますので、今回の義務化により中古住宅市場が活発化して、住宅の有効利用を促進するものとして期待されていました。
このように、ホームインスペクションの義務化については、あくまで不動産業者から売主・買主に対して行う説明事項についての義務化となっています。具体的には、以下のような説明が義務化されました。
●ホームインスペクションについての説明
●ホームインスペクションを実施済の物件についてはその調査結果の説明
●売主・買主が建物の状況について書面で確認することの説明
不動産業者は、これらの説明を媒介契約・重要事項説明・売買契約の中で行うことになっていますが、それぞれどのようなものなのでしょうか。
① 媒介契約
不動産業者は、媒介契約書にホームインスペクションを実施する業者を斡旋するかどうかを記載しなければいけません。つまり、媒介契約を結ぶ段階で売主・買主に対してホームインスペクションについて説明する義務があるというわけです。
具体的には、ホームインスペクション自体の説明はもちろんですが、ホームインスペクションを行う業者の斡旋を希望するかどうかの意志確認も必要になります。
そして、斡旋希望者に対しては斡旋先の業者の情報を提供することになり、ホームインスペクションを実施するまでの段取りも行います。中古住宅の売買においては、売主とは売却依頼を受けた最初の段階で媒介契約を締結することになっていますので、そのタイミングでホームインスペクションについて説明することになります。
これまでは、買主との媒介契約は住宅の購入が決まる時に重要事項説明や売買契約の締結と同時に行われることが多かったことから、これまでの方法とは別で説明が必要になっています。
② 重要事項説明
不動産業者が重要事項説明を行う際には、売買対象物件に対してホームインスペクションを実施するかどうか、すでに実施している場合は調査結果の概要や設計図書など建物の建築・維持保全の状況に関する書類の保存状況を説明することが義務付けられました。
この義務化により、基礎や土台、床組み・雨漏りの防止に関する事項などの調査結果を書面で説明することになっていますが、買主からその調査結果に対する詳細の質問があった時に営業職では適切なアドバイスができないのではないかという疑念もあります。もちろん、そのような説明を行うことが義務化されているので、買主からの質問に対して曖昧な回答をするわけにはいきません。
そのため、不動産業者はホームインスペクションに関する詳細な質問に関してもすぐに回答できるような環境を整備する必要が出てきています。また、建物の建築・維持保全の状況に関する書類を売主が持っているかどうかも大きなポイントになっていて、その書類がない場合は中古住宅の売買取引自体が無効になる可能性もあります。
③ 売買契約時の対応
重要事項説明の後に締結するのが売買契約ですが、このタイミングでは建物の構造上主要な部分と雨漏りの防止に関する部分の調査結果を、売主・買主が互いに確認する必要があります。
そして、その確認した事項について書面を残すことになっています。そのため、売買する前にホームインスペクションを実施している場合は、売主・買主がその結果を互いに知った上で取引することになることから、トラブルは少なくなると考えられています。ホームインスペクションが義務化される前は、住宅の瑕疵を隠したまま取引が進んでしまったことも多く、売買契約成立後にさまざまな瑕疵が明るみになり、トラブルになった事例はすくなくありませんでした。このように、不動産業者だけでなく売主・買主もホームインスペクションについて正しく理解しておくことが、取引がスムーズに進むことにつながります。
ホームインスペクションの相場は?
最後にホームインスペクションを実施する時のコストについて考えてみましょう。もちろん、業者によって金額の差異はありますが、ある程度の相場を把握しておくと無駄なお金を払わずに済みます。以下に、具体例を示しておきます。
① 基本的な調査範囲の料金・費用
およそ5~7万円程度が相場となっています。基本的な調査範囲とは、床下や屋根裏を点検口などから目視でチェックするもので、床下や屋根裏へ進入しないで行う調査のことです。
② 床下や屋根裏へ進入して調査する場合の料金・費用
およそ9~14万円程度が相場となっています。もちろん、基本的な調査を行った上で床下と屋根裏へ進入してチェックを行うので、より詳細な住宅の現況がわかります。
ホームインスペクションの相場については、地域差もあります。関東・関西・東海以外の地域の相場は、もう少し安いといわれています。とはいえ、ホームインスペクションの義務化が進んでいますので、経験不足で人件費の安い診断士に依頼したり、報告書を簡素化したりするなどして格安なホームインスペクションが出てきているようです。
当たり前の話ですが、それなりに費用がかかるものが格安になっているのには理由があります。しっかりと確実なホームインスペクションを行うためには、上記の相場からかけ離れていない金額の業者に依頼することをおすすめします。特に、報告書は一番重要ですので、この報告書を手抜きで制作するような業者に依頼してしまうと、後々のトラブルにつながりかねません。
もちろん「住宅診断の料金・費用が高いこと=能力が高いこと」とは言えないケースもありませ河、「料金・費用が極端に安いこと=能力が低いこと」はそう考えるのが自然でしょう。そのような格安の診断会社は、依頼者のことを第一に考えるのではなく会社の利益優先になっていることがよくあります。中古住宅の取引の透明性・信頼度をあげるためのホームインスペクションの義務化ですので、業者選びで失敗しないようにしたいものです。
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記事監修:矢島 弘子 |
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火災保険請求・地震保険請求アドバイス業務に従事。年間200棟の調査を13年間継続して行い、建物調査後の損害鑑定人との立ち合いや交渉も行っている。外部の敷地内の申請はもちろん室内の汚損・破損の申請や給排水設備の申請も得意とし、家財保険かけている方が知らないスーツのアドバイスなども行っている |